[僕のヴィクトル・コレクション]



勇ヴィク本
A5/50P/R-18
夏のシーズン開始前。写真を撮らせてくれないヴィクトルと、拗らせて隠し撮りに走り、最終的にハメ撮りに目覚める勇利。ハメ撮りと、S字結腸責めがあります。
表紙をまつえー様に描いていただきました!


 ヴィクトル・ニキフォロフというひとは、よく写真を撮る。
 彼が長谷津にやってきたとき、勝生勇利はトレーニング中の会話の途中、長谷津城をバックに彼の愛犬との写真を撮るカメラマンをしたことがある。あれがたぶん、勇利が彼を撮った初めてのときだっただろう。
「ねえ、撮って撮って! マッカチンと一緒に!」
「え、いいですけど……」
 そんな風に撮った写真を彼はインスタグラムにアップして、そして居場所がユーリ・プリセツキーにばれて――春先は本当にいろいろなことがあった。
 それも落ち着いて、彼と共にシーズンに向けて毎日を過ごすうち「勇利、撮って!」と頼まれることは当たり前になった。次第に「一緒に写ろうよ!」と誘われることも増えていった。
 ヴィクトルのインスタグラムはいつも新しい写真でいっぱいだ。たった数か月前まではそれをただ眺める立場だったのに、いつのまにか隣で一緒に写っているようになっていることがとても不思議だ。
 彼と恋人同士という関係になってからは頻度が上がり、ネットに上げるだけではない、本当のプライベート写真もよく撮られるようになった。
 主に食事中の姿や、寝起きの無防備な姿だ。
「勇利、顔上げて」
 そんな声に顔を上げた瞬間にカシャッと音が鳴ることは日常茶飯事になる。撮られることがあまり得意ではない勇利も、あまりにも頻繁なせいか、すぐに慣れしまった。
「もー、また撮ってるの? インスタには上げないでよ?」
 とはいえ、それはあくまでプライベートショットで、ネットに上げられないように釘をさすことは忘れなかった。
 気を抜いてご飯を食べている姿なんて全世界の人に見られたくない。
 ヴィクトルだけでなく知り合いのスケーターたちは皆、そういう姿を楽しそうにアップしている。それを否定するわけではなく、自分が見るのは構わないが、当事者になるのは勘弁してほしいというスタンスだった。
(僕の食事中の姿なんて、誰にも需要ないし)
 そう思っていたけれど。
「上げない上げない。この勇利は俺の」
 スマートフォンを抱きしめ、頬や鼻の頭を赤く染めて嬉しそうに笑うヴィクトル。
「ならいいけどさ」
 喜ぶ姿が可愛くて、つい許容していた。
 それに、ヴィクトルが嬉しそうなのも、ヴィクトルのスマートフォンにどんどん自分の姿が増えるのも、正直嬉しかった。
(ヴィクトルにだけ需要があればそれでいいよね)
 そう思っていた。
 ――けれど、本当はひとつだけ不満がある。
 それは、ヴィクトルのスマートフォンの中にはどんどん写真が増えているのに、勇利のそれには何も入っていないことだ。
 ヴィクトルは撮ることが好きなだけではなく、自撮りもするし、スマートフォンを渡してきて撮ってと頼んでくるときもある。だから、撮られた画像はすべてヴィクトルのスマートフォンの中だ。
 勇利のスマートフォンの中に入っているヴィクトルの写真は、ネットに上がっているものを保存した画像しかない。
「……ヴィクトル、僕もヴィクトルを撮っていい?」
「んー? ダメー」
 酔ったヴィクトルに頼んでみたこともあったが、さらっと断られてしまった。
 勇利は一度そう言われてしまうとそれ以上先に踏み込めない性格で「そっか」と言ったきりそのことは話題にも出せない。臆病な性格が恨めしかった。
(ほんとはヴィクトルを撮りたいけど、一回断られたし)
 酔って機嫌がよさそうなときにこの反応ならば、素面のときでも同じだろうと、勇利はそれ以上ねだることができずにいた。

 グランプリファイナルのアサインが出て一月ほど経った夏真っ盛りのころ。勇利は毎日、ヴィクトル・ニキフォロフをつきっきりのコーチに、アイスキャッスル長谷津でくたくたになるまで練習していた。
 日課でありトレーニングでもある、朝のランニングは日に日に開始時間が早くなっている。日差しがキツく、外を走っていられないからだ。宵っ張りの勇利は朝起きるのが辛いことがしばしばあったが、最近は大抵、アラームの前に暑さで目が覚める。原因はカーテンを閉め忘れた窓の向こうからのきつい朝日か、一斉に鳴き始める蝉の声だったけれど、そうでないものが原因の日もある。
「んん、暑い……」
 毛むくじゃらの感触。熱を持った毛布のようなそれが下半身にまとわりつき、勇利は汗べっしょりで目を覚ました。
 瞼を開くころには霧散したが、ひどい悪夢を見た気がする。
 はあ、と息を吐きながら手だけで眼鏡を探していると、胸の上に何かが乗り上げた。重くて熱い。
「ハッハッハッ……」
「ああ……マッカチン」
 ヴィクトルの飼い犬で、いまはゆ〜とぴあかつきの看板犬にもなっているスタンダードプードルは、どうやったのか勇利の眼鏡を頭の上に乗せて黒々とした瞳をこちらに向けている。全身でする浅い息が振動になって勇利の胸元を揺らしていた。
 暑い。
 勇利は眼鏡を取り上げて自らの耳の上にかけつつ、その巨体をゆっくりと壁際に押しのける。そして、汗でべとべとする身体を捩らせながら上半身を起き上がらせた。寝苦しかったからかあまり疲れが取れていないようですこしだるい。
「って、え、ヴィクトル?」
 勇利の左側、ちょうど左手をついた位置。両手を重ねて横向きに身体を丸めているヴィクトルの姿が目に入って驚く。
 朝日に照らされた白い横顔。長い睫毛を揺らし、すうすうと、気持ち良さそうに眠っていた。勇利の身体が光を遮り、暗くなっている部分とのコントラストが、まるで一枚の絵画のように見えてつい惹き込まれる。
 昨日の夜は一緒に眠っていないはずなのだけれど、どうしてここにいるのだろう。
(夜中に忍び込んできたのかな、それとも明け方?)
 子供の頃から使っているシングルベッドに大人がふたりと犬が一匹。どう考えても重量オーバーで、使い古したベッドの底が抜けてしまわないか心配になる。
(ただでさえ最近酷使してるのに……もし壊れたら家族にどう言えばいいんだよ、もう)
 はあ、とため息を吐きつつ、いつの間にか枕の下に移動していたスマートフォンを見ると、いつも起きる時間よりすこし早かった。
 すっかり目も冴えてしまったしどうしようか。
(今日も暑そうだし……早めにランニングしようかな)
 さっきまで構って欲しそうに舌を出してこちらを見上げていたマッカチンは、いつの間にか前足を枕に丸くなり、飼い主と同じように気持ちよさげに眠っていた。左右で眠るひとりと一匹を起こさないようにそろそろとベッドから出る。
 そのとき、ふと手にしたスマートフォンとヴィクトルを見比べてしまった。楽しい夢でも見ているのか、口もとが緩み始めた無防備な寝顔。
 いまならば撮っても、確実に気づかれない。
(……いやいや、ダメって言われたじゃん)
 つい浮かんだ欲望をぐっと押し殺し、勇利は汗で湿ったTシャツを脱いだ。


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「マッカチン、居間へ行っていて?」
 ヴィクトルはふと腰を屈め、ベッドの下にいたマッカチンの頭を撫でて命じた。従順な愛犬はおやすみの挨拶にちいさくひと鳴きし、部屋を出て行く。
「ゆうり、フスマ、閉めなきゃ……」
 ヴィクトルはそう呟いたけれど、抱き寄せる勇利の腕を引きながらゆっくりと後ろに倒れていって、背中をシーツにつけて見上げてくる。絡めるように腕を掴まれていたら、もう放せないじゃないか。そう言いたいけれど、それよりキスをしたかった。
 シーツに右手をついて、背を丸める。ヴィクトルのどこを見ても美しい相貌に顔を近づけた。しっとり触れ合わせる。
「ん、……ヴィクトル、」
 ちゅ、と音を立てて触れたものを離して、顔を上げると物足りない顔をされたから、もう一度。何度も触れては離し、唇だけでなく頬や目尻にも触れていくと、くすぐったいのか両手を首の後ろに回された。
 しなやかな腕がぎゅっと、首を掴む。
「わっ、ヴィクトル、っ……んん」
 そのまま引っ張られて、ぶつかるように強引に唇が触れ合う。ヴィクトルは口をあけて舌を出して、べろんと唇を舐めてくる。ヴィクトルの舌はあつい。
(ああ、もうヴィクトルのことしか考えられない)
 勇利は肘をついて眼鏡を外し、体の距離を縮め、ヴィクトルの小さな頭を抱きかかえるような体勢になった。そして、ようやく自らも口をあける。
「あ、んっ…、っ…ん、ぁ……」
 ヴィクトルの口の中に押し入り、貪るように舌を絡めた。甘い。ずるずると唾液を吸い上げたらヴィクトルは喉をひくりと鳴らす。もっと深くつながりたい。
「ん、っ、ヴィクトル、もうちょっとくち、あけて」
 肘を突いたまま、人差し指だけ口元に持っていって口の端に引っ掛ける。すこし横に引っ張ると、ヴィクトルはうっすらと目をあけて眉を寄せたけれど、結局瞼を伏せて、キスの方へ意識を持っていく。
 勇利は目をあけたまま、ヴィクトルの長い睫毛がふるりと揺れる様子を見ていた。
 至近距離ゆえに、赤く色づいていく目尻もよく見える。
「んん、っ……んぁ、っ、あぁ…。ふ、ぁ」
 甘い声に溺れていく。
 次第に息が苦しくなって、名残惜しく唇を離すと、とろんとした瞳のヴィクトルが口をうっすらあけて、熱い吐息を零していた。乱れた前髪に、欲に浮かされた表情。普段清廉な雰囲気を纏っている美しいひとが、壮絶な色気を放っている。
 ギャップに全身が熱くなって、頭が重くなる。またふらふらと吸い寄せられかけたが、歯に力を入れてぐっと留め、勇利はヴィクトルの身につけている館内着の紐をぷつんと解き、そっと開いて胸元を露にした。白いはずのそこはキスのせいか、薄桃色に染まっていた。ヴィクトルはいつもこんなに無防備な格好でいると、脱がすときに実感してしまってつい眉を寄せてしまう。
「ゆうり?」
「何でもない。ちょっと手、冷たいかも」
 さっきまでヴィクトルの濡れた髪に指を通していたから、ごめん。そう宣言してからいつもよりも慎重に肌に手を触れさせる。
 仰向けのせいですこし浮かんだ肋骨の辺り、薄い皮膚にはやはり手が冷たく感じたらしく、ヴィクトルはぴくりと身体を揺らした。鍛えられた腹筋まで釣られてぴくりと揺れる。
「ん……」
 むずかる声に、なだめるように頬へキス。そしてさらさらと引っかかりのないわき腹を撫でていたら、温度が混じりあって、すぐに勇利の手は温かくなった。そのまま右手を胸元へ戻し、鍛えられて柔らかい筋肉が乗った胸をゆっくりと手のひら全体で揉む。
「ん、っ……」
「ヴィクトル、ここ、いつも柔らかいね」
 触り心地が良くて最高、と呟くと、ヴィクトルはすこし不満そうに顔を逸らす。
「、ゆうりが、揉んでるから……」
 は、と吐息交じりの声が色っぽい。
「え、僕が柔らかくしたの?」
「……嬉しそうな顔しないでよ」
 そんなことを言われて顔を輝かせない方が変だろう。自分がヴィクトルを変化させたと言われたのだ。こんなに嬉しいことはない。
「嬉しいんだから仕方ないでしょ。――ね、ここも僕が敏感にした?」
「あっ、や……」
 指先できゅっと乳首を摘んだら、ヴィクトルはすこし高い声を上げて、そんな声を出した自分を恥じるように口を片手で塞ぐ。
「聞かせて、声」
 その手を引き剥がすと、むむ、と怒った顔のヴィクトル。
「……フスマ閉めてよ」
「ああ」
 忘れてた、そう呟いて、勇利はベッドから降りて襖に手をかけ、廊下をふと見る。人気のない板張りの空間。外側の窓から見えるのはきらきら輝いている星だけだ。
 勇利はすぐに襖を閉めてベッドへ舞い戻る。ヴィクトルの体の上に乗り上げると、ちら、とヴィクトルは天井を見た。
「電気は?」
 消さないの? と問いかける声に、勇利は首を傾げる。
「今日はつけたままでいい?」
 じっくり見たい。そう続けたら、しょうがないって言うように、腹筋ですこし起き上がったヴィクトルにキスされた。柔らかい唇に、ふたつの意味で甘やかされている気分だった。
「ん、ヴィクトル」
「ゆうり、」
 頬を手のひらで撫で、耳を指先でくすぐって、サラサラの髪を指で漉く。ヴィクトルは懐いた猫のように目を細めて、ふふ、と笑う。
「もっと撫でて」
 甘えるような声に、勇利は際限なく甘やかしたくなってしまう。髪を撫でながら、勇利はすっと通った鼻筋を横から唇で挟み、ぺろりと舐める。
 そういう、動物みたいなじゃれあいをヴィクトルは好むらしく、教え込まれたままに勇利は頬や耳たぶに軽く歯を立てながら、首筋に顔を埋めた。白い首の膨らみにも柔らかく噛みつき、そのまま唇だけでちゅっと吸いついたら、あははっと笑われた。
「ゆうり、くすぐったいよ〜」
「ええ、ほんと?」
「もっといやらしく噛みついて? ほら、もう一度」
 顔を上向けて無防備に露にされる首もと。
 コーチされたとおり、勇利はそっと顔を寄せて唇だけで撫でたあとに舌を出す。できるだけいやらしくなぞるように舐めてから、ゆっくりと吸いついた。
「ん……上手、」
 耳の後ろの皮膚が薄いところをなぞって、性感を高めながら、首筋や顎の辺りにいくつもマークをつける。ヴィクトルの白い肌はすこし吸いつくだけで、すぐに赤い跡がついた。
 キスマークをつけながら胸元へ顔をずらしていき、胸を揉みながらまだふにゃりと柔らかい乳首にキスして、舌先で擦るように刺激する。
「あ、っ、……っあぁ、」
 白い肌に滲むピンク色の乳首は、勇利が舌で濡らし、歯を立てて甘噛みしているとすぐに赤く色づいて硬くなった。ヴィクトルはここで感じるのは羞恥が刺激されるらしく、ほかに触れているときよりも控えめに声を零すのが可愛らしい。
 指も使って乳首の根元を刺激しながら唾液で全てがべとべとになるまで舐めていたら、ヴィクトルは耐え切れないと言うように、勇利の髪をぎゅっと掴む。軽く引っ張られた。
「いたたた……」
 目を向けるとむっと睨まれたのでこのくらいにして、勇利は上半身をすこし起こして下にずれる。
 膨らんで、館内着のズボンを押し返しているそこ。もうすぐにでも濃い色のしみを作ってしまうのではないかと思うほど高ぶっているヴィクトルの性器。見たい。勇利は衝動に突き動かされるように腰をすこし曲げる。
「触るね?」
 手を伸ばし、布越しに触れたらやっぱり熱かった。手のひらで撫でつけるように刺激したら、ぐしゅ、と濡れた感触がしたので、汚れてしまうと思った勇利は一旦手を離して館内着を脱がす。
 触れたときになんとなく予想はしていたのだけれど、ヴィクトルはその下に何も身につけていなかった。ぐい、とずり下げるだけで白い肌に見合う薄赤色の性器がぷるんと飛び出してくる。ヴィクトルはこんなところまで美しいのだけど。
 勇利は視覚的に煽られすぎて、顔を真っ赤にし叫ぶ。
「なんで下着つけてないの!?」
「何でだと思う?」
 中途半端に服を脱がされた格好すら決まっているヴィクトルは、目を細めて意味深に笑うからたまらない。
「もう、やめてよ。そうやって僕のことからかうの……」
 痛いくらいに勃起した自分のもののことを思い出してしまう。ヴィクトルを高ぶらせているだけなのに、それを見てすっかり臨戦態勢になってしまうのはいつものことだった。
「からかっているつもりはないけどな」
 指を口元に持っていき、首を傾げるあざとい仕草がめちゃくちゃに似合う四歳年上のひと。
 更に股間が痛くなってしまった勇利は、ばっと勢い良く、ヴィクトルのものに覆いかぶさる。このひとをを黙らせるには、これが一番きく。
「あっ、ゆうり、それは……っ」
 外国人だからか、ヴィクトルはオーラルに全然慣れていなかった。自分では結構するくせに、されるのは苦手なんて不思議だけど。
(写真を撮られるのも苦手なのかなあ。……でも、ついこの間まで、マスコミとかにしょっちゅう、撮られてたと思うんだけど)
 そんなことを考えながら、勇利は赤い先端に唇をつける。ちゅ、と触れたそこはすこししょっぱくて温かくて柔らかくて、なんとも言えない感触なのだけれど、ヴィクトルのものだと思うと美味しそうにさえ感じるから不思議だ。
「あっ、ゆぅり……っ!」
 まず下唇でするすると撫でる。すぐにぐしゅ、と先走りが零れてきた。唇に塗りこめるように動かしていると、頭の上でう、う、という泣き言のような声が聞こえてきた。
(でも、夢中になったら、いやって言ったことなんてすぐ忘れちゃうんだもんなあ)
 ヴィクトルは恋人同士の甘い触れ合いやセックスが大好きで、更に快楽に弱い。だから結局、最初むずかっていても、のめり込むとそれを忘れてしまうのだ。
 唇をあけて、舌全体でカリを包む。先端はもう先走りでべとべとになっていた。それを更に濡らすように唾液を絡ませ、じゅ、ずず、とわざといやらしい音を立てて吸う。
「あっ、あ、あぁ、んんっ…、ふぁ、っ……」
 気持ち良さそうな声が聞こえてくる。勇利はあえて先端ばかりを苛めた。ヴィクトルの大きくてふわふわした、柔らかめの性器を支える手はそのまま動かさず、舌だけで先端を愛撫し続ける。そうしていたら段々耐え切れなくなることは、自分もやられたことがあるから良く知っている。
「っ、ゆうり……っ、ぉ、っと……」
「ふぇ? なに?」
「あっ、そこで喋らないで……っ」
 先端だけをくわえ、段になっている部分にすっぽりと歯を立てて甘噛みしながら問い返すと、ヴィクトルは怖いと言って涙目になる。
 勇利はそれを目だけで見上げる。唇を腕で隠してぐすぐすとしているヴィクトルは幼子のようにあどけない。
(あー、かわいいなあ。撮りたい、……ああ、だめだめ)
 スマートフォンを手が探しかけたが、いまはさすがにばれずに撮る自信がない。勇利は脳内に焼きつけるようにじっとヴィクトルを眺める。すると、ヴィクトルはその視線を受けて、極まるように背筋を震わせるからたまらなかった。
(僕がヴィクトルに快楽を与えてるんだ)
 それだけで自分も高まってしまう心地になって、我慢できず勇利は先走りと唾液を指ですくってから、右手をヴィクトルの後孔に近づける。ちゃんとローションを取らないと、と頭の隅で考えながらもちっともコントロールがきかない。
 衝動のまま、そこに指を潜り込ませる。
(あれ?)
「……あっ、ゆうり……」
「……ヴィクトル、もしかして自分でした?」
 家族風呂にひとりで入った理由はこれだったのか。急にぴんときた。ヴィクトルの窄まりはすでに柔らかく、中にローションを仕込んでいたようでぐずぐずに蕩けている。指二本がすんなり入り、ふちに引っ掛けて伸ばすとくぱ、と開いて、中でローションがぬめぬめと糸を引いている。
「ん……」
 小さなその声だけでヴィクトルは肯定した。
 勇利はあまりの展開に、背中からぞわぞわと快楽が登っていく感じがした。もう我慢できない。指を半分ほどまで入れ、ピースサインをするようにぐっと広げた。
「あぁっ、広げるのは……」
「いや? いいでしょ?」
「んん……」
 勇利は欲望に支配されすぎて取り繕う余裕がなく、そっけない口調になってしまう。ヴィクトルはそれにすら感じているようだ。頬が真っ赤に染まって、目がとろんとしていく。
「ヴィクトル、すぐ入れてもいい?」
「ん、いいけど……」
 指を根元まで入れて奥をかき混ぜる。すでにそこまで柔らかい。完全に受け入れ態勢が整っていることを確認して指を抜くと、ヴィクトルはゆっくりと身を起こし、勇利の肩に手を回す。
「ゆうり、こっちに座って」
 そうして誘導されて、ベッドに上がって枕元に尻をついた。ヴィクトルは身体を乗り上げて、太腿同士をすりすりと擦りつけてくる。肌が触れ合う感触が気持ちいいけどすこしくすぐったい。ふふ、と笑うと、ヴィクトルは釣られるように笑ったあと、一瞬で表情を変えてセクシーな流し目を送ってくる。そのギャップがたまらなかった。
「ゆうり、ゆうり……」
 母音が強調された、甘ったるい呼びかた。いいにおいがする身体をすり寄せて、首に片腕を回して抱きつかれる。そして、後ろ手に、スウェットを脱がされ、一度も触られることもなく臨戦態勢になっている勇利の性器に触れられた。
「あ、ヴィクトル……」
 余裕がない切羽詰った声。ヴィクトルは嬉しそうに顔を覗き込んでくる。主導権を握り、自分の思うように翻弄することがヴィクトルは好きなようだ。
(最近は、僕にすっかり流されてくれるときもあるけど)
「ん、入れるね……」
 ヴィクトルはゆっくりと腰を落として、窄まりと勇利のものを触れ合わせる。くちゅ、とキスをしたそこは、ヴィクトルが緩く腰を揺らめかすことによって滑り、勇利を焦らしてくる。
「入れるんじゃないの、」
 つい、そんな苦情を零してしまう。
 わざとだとは分かっていたけれど、そういうときヴィクトルは心底楽しそうに笑うから、勇利は強引な手段に出たくなってしまうのだ。
 ヴィクトルの細い腰を両手でぐっと掴み、位置を合わせる。
「あぅ、勇利……っ!」
 ずぷ、と音が立ちそうなほど強引に、勇利はヴィクトルの中に入り込む。
「あ、ああっ……!」
「ヴィクトル、気持ちい……」
 体勢から、ヴィクトルの体重が乗ってあっという間に奥までたどり着いてしまう。ヴィクトルはいきなりやってきた快楽に耐えるように、両手でぎゅうぎゅうと抱きついてきた。勇利はヴィクトルの鎖骨の辺りを舐めながら、腰を掴んでいた手を下へ滑らせ、大きくて柔らかい尻をぐっと掴む。やわわや揉むと、中が伸縮してゆるく締められる。気持ちいい。
「動かすね」
 ひとこと言って、ヴィクトルの尻を持ち上げる。ずず、と抜けていく感覚。そして手を緩めて、重力に任せれば、ずくっと奥にまた入っていく。持ち上げて、緩めて、持ち上げて、緩めて……緩めたときにどこに当たるかわからないから、前立腺を刺激したり、内壁を擦ったりする。ヴィクトルはそれが辛いらしく、勇利を抱き締めながら身悶えしていた。
「あ、あ、……っ」
(あぁ……やらしか……)