[おくちで剥いてあげようか?]



勇ヴィク本
A5/48P/R-18
両思いになったばかりのふたりはシーズン前、夏の日を長谷津で過ごしていた。ある日勇利が仮性包茎だと教えられたヴィクトルは「もう勇利だけのものじゃないから」と治療を買って出て……。表紙を保村さんに描いていただきました!


 皮膚にまとわりつく、じっとりとした暑さ。日本特有だと思うもののひとつだった。ヴィクトル・ニキフォロフは、アイスショーで数日訪れるのと、日々を過ごすのでは全く体感が違うのだと身にしみて感じていた。
 とはいえアイスショーでは周りに常に人がいて、外を歩くことなんて叶わない。室内ばかりで冷房の恩恵に預かっていたので当然と言えば当然だった。対して、今いる部屋は、冷房はつくもののタイマーで夜中には消され、朝早くから昇った太陽がぎらぎらと照らされ、薄い壁から熱が伝わってくる。だがここが生家である勝生勇利いわく、これでも暑さには強いほうらしい。
(うそだ、暑いよ……)
 ぼんやりと目覚めたヴィクトルは、以前した会話をぼんやりと思い返しながらのそりと起き上がった。愛犬がベッドの下で尻尾を振っている。ヴィクトルが起きた気配を察知して顔を上げたけれど、手で制して近づいてこないようにする。マッカチンのことは大好きだ。けれど、眠っている間に汗でべっとりと湿った身体に、毛むくじゃらに熱を溜めた身体を触れ合わせることを想像するだけでげんなりと暑かった。
「勇利は、よくこんなところでぐっすり眠れるよね……」
 狭いベッドの中、壁際に追いやられていたヴィクトルは、熱を持ったブランケットをそっと持ち上げた。裸で寝ていた分、放出された熱が直接吸い取られている。隣でいまだ深い睡眠を貪っている教え子の勇利は、下着一枚の姿で口の端によだれを垂らして健やかな寝息を立てていた。
「……ふふ、かぁわいい」
 頬をつんつんとつつくと、ううん、とむずがるような声がする。二十三歳にしては幼い顔立ち、黒い髪に今は外されている眼鏡。典型的なアジア人らしい低めの鼻に掘りが浅い眼窩。日本人にしては薄めの瞳も今は閉じられて見えない。けれど、ヴィクトルは別に見なくたっていつでも頭のなかに勇利の顔を浮かばせることができる。
 ソチで行われたグランプリファイナルのバンケットで恋に落ち、一週間ほど前に想いを伝え合ったばかり。ヴィクトルはきっと、人生で一番の幸福期のさなかにいる。
 身をかがめてキス。勇利の頬はほかほかと温かかった。スプリングがへたっているベッドがゆさっと揺れたけれど、その程度では起きる気配もない。
 炒ったナッツのように深みがある色をした目にじいっと、熱を持って見つめられないのは何だか物足りなかった。
「勇利ぃ、起きてよ」
 小さく声をかけてみたけれど、勇利は起きない。昨日はたっぷり練習をして、眠る前に恋人同士がする激しめの運動もしたから、疲れているのは分かるのだけれど。
 ヴィクトルはふと思い立ち、腕を伸ばしてスマートフォンを持ち上げる。勇利の寝顔を撮るのも面白いかと思ったが、目覚めたら機嫌を悪くしそうだ。自重して、ヴィクトルは壁に背をつけ膝を立てて座り直し、スマートフォンを操作する。昨日上げた写真の反応が気になった。
 開いたSNSは、昨日投稿した内容に大量のハートとコメントがついていた。ミナコのところでバレエレッスンをする勇利の写真だ。日に日に引き締まっていく勇利の身体。脚を後ろに上げてキープしているその太腿には筋肉が筋になって浮かんでいる。コメントはロシア語、英語、日本語、その他様々な言語でずらりと並んでいる。そのどれもが、勇利に対する好意に満ちている。
(勇利もやればいいのに……)
 アカウントを持っているくせにちっとも写真をアップしない勇利。そのくせちゃんとアプリは入れていて、ハートを押すことには余念がないのだから、複雑だと思う。
(勇利が気持ちを伝えてくるまでも、色々あったし……)
 自分の中にある強い気持ちを溜め込み、頑なだった勇利がその好意を伝えてくれたのは、怒りで言葉がはじけ飛んできただけにすぎない。荒療治をした自覚はあったけれど、そうでもしないとすれ違ってこじれて、コーチと教え子という関係すら壊れてしまったに違いなかった。
(勇利がちゃんと告白してくれて良かったな)
 バンケットで勇利が言った「コーチになって」という言葉。そのあと、ふたりでした行為について、酒に呑まれていた勇利は一切合財を忘れてしまっている気がする。以前、真利がため息混じりに言っていたが、勇利とパーパは、酒を飲むと大胆になり、そのときの記憶を失ってしまうことが多いらしい。それはバンケットで行われたダンスバトルが全てを物語っていた。勇利はあの日酒に酔い、そしてあの夜のことを全て忘れてしまったのだろう。照れて知らないふりをしているという可能性もまだ残しているけれど、勇利はなんせ複雑な性格をしているから。
 もし忘れているなら、教えたほうがいいだろうか。
 教えるなら、いつが良いだろう?
(すぐに教えるのもつまらないよね)
 スマートフォンのカメラアプリを立ち上げて、勇利を画面上に表示させる。撮影ボタンは押さずに、ズームして、勇利の顔をじっくり見てみる。前髪が中途半端におりていて、一部は寝癖なのか枕に寄り添っていた。子供みたいにうつ伏せで、緩んだ頬と唇が幼い。
 ふふ、と笑って、撮影はせずにアプリを閉じた。
「先にご飯食べちゃおう」
 さっきから味噌汁の良いにおいがしているのだ。


******


「……しょうがないなぁ」
 ヴィクトルは手を離すと思ったのに、硬くなった幹を手で柔らかく掴んで、しゅっと上下する。
「……っ、ヴィクトル?」
「このままだと、辛いでしょ?」
 ついでだし、してあげる、なんて。
 気が遠くなるような言葉と共に、ヴィクトルは顔を伏せてしまう。唇と同じく薄めの舌がぬるる、と先端から根本まで下りていき、ちろちろと根本を舐められた。ヴィクトルの頬に赤く腫れた性器が触れている。その信じられなさにごくんと息を飲んだ。
「気持ち良い?」
「……聞かないで、」
 お願いだから何も言わないで。消え入りそうな声に、ヴィクトルはふと顔を上げると、何もかもを許容するような美しい笑みを浮かべて頷いた。
 そのまま、大きく開けた口であーん、と声を漏らしそうな上機嫌さを目元に浮かばせたまま、ぱくりと性器を食んでしまう。柔らかく温かいものに敏感な粘膜を包み込まれ、勇利は声を我慢することができなかった。
「あ……っ、ぁ……」
 恥ずかしい。こんな風に敏感なところをすっかり明け渡して、無様に喘いでいる。けれど、この部屋にはふたりしかいなくて、ヴィクトルは恋人という対等の関係で、いざとなれば勇利は、今は主導権を握っている恋人を、身も世もない快楽に溺れさせることだってできる。それを知っているから、何だって見せられると思った。
「ヴィクトル、っ……」
 唾液と先走りが絡んで、じゅぷじゅぷといやらしい音がヴィクトルの口から漏れ出ている。信じられない光景。ぞくぞくと背中に快楽が走った。部屋の中はすっかりクーラーが効いているはずなのに、暑くてしょうがない。
「あ、ヴィクトル、っ、……うぅ……」
「っ、ん……っ、ふぁ、っ、ぷ」
 汗でヴィクトルの長い前髪が湿り、束になって勇利の下腹部に触れていた。くすぐったい。ヴィクトルも邪魔だと思ったのか、指先で器用に前髪をずらし、耳にかける。
「ん……」
 その仕草がセクシーで、露わになった耳が薄っすらと桃色なのもたまらなくて、勇利は腰に力が入らないほどの強い快楽に苛まれ、もう限界が近かった。無意識に身体が持ち上がってしまう。
「ん、ん、ん……」
 突き上げるような形になってしまって、柔らかい上顎を先端がこすってしまうたびに、ヴィクトルは息を逃がすために音を漏らす。
「は、ぁ……っ、ヴィクトル、ヴィクトル……っ!」
 もう達しそうだと、切羽詰まった声で伝えたら、ヴィクトルは根元を支える指をこしゅこしゅと上下して、解放を促してくる。
(あ〜、もうだめ、いく、っ……!)
 自身を解放することだけで頭がいっぱいになって、ヴィクトルの肩をぐっと掴んで前かがみになっていた。すっかり割れている腹筋で、ヴィクトルの頭を押さえつけるような形になっていることには気づけなかった。
「あ、あ、あ……っ、ヴィクトル、っ……!!」
「んんんん、ぐ、ぅ……っ!」
 くぐもった声にハッとしたと同時に、勇利は腰がぶるっと震えて、自分では制御できない迸りに身を任せるしかなくなった。それでも最後の理性を振り絞って身を起こしたら、ベッドヘッドに背をしたたかに打ち付けてしまう。
「うっ……うううっ、ぁ、ふ、」
 痛みと快楽に頭が真っ白になりながら、勇利はヴィクトルの口の中に精液を遠慮なく注ぎ込んでしまう。
「っ、う、っ……ふ、ぅ……っ」
 あのヴィクトルに。口の中に。その考えに及んだのはすっかり出しきった後のことだった。
「……っ、あ、ヴィ、ヴィクトル、だ……だいじょうぶ……?」
 勇利の股間に顔を埋めたままのヴィクトルに、そっと指先を触れさせる。くしゃりと髪の中に指を差し入れると、ヴィクトルはぴくりと揺れて、ゆっくりと顔を上げた。
「ん……」
 勇利の精液を口の中に含んだままのようで、きゅっとすぼめた唇が濡れていて艶めかしい。勇利が両手を差し出す前に、ヴィクトルは自分の右手を顎の下へ持っていき……。
「ん……ぅ、あ、はっ……」
 とろとろ、と唇から精液を落としていく。唾液と混ざって泡立っている液体を、瞼を伏せて長いまつ毛を震わせながら吐き出している。その姿が言葉を失うほどに卑猥で、勇利は達したばかりだというのにまたそこへ熱が集まっていくのを感じた。
「ん……っ、ん、っ……」
 ヴィクトルはといえば、口の中のものを全て吐き出して、苦しげに息をしていた。ずっと勇利のものを咥えて下を向いていたせいだと気づき、口からごめん、と言葉が出る。
「ヴィクトル、大丈夫……?」
「ん……」
 声に反応して顔を上げたヴィクトルは、とろんとした目をしていた。耳にかけていたはずの前髪は、八割方がもう滑り落ちて左目にかかっていたが、整っていない前髪が無防備さを醸し出していて、正直そそった。口の中にも気持ちよくなる場所はある。ヴィクトルは勇利のもので遠慮なく刺激されたせいで火がついてしまったのかもしれない。
「ヴィ、ヴィクトル……」
 つい手を伸ばして頬に触れると、甘えるように擦り寄ってくる。ちいさく音のある息を零しながら手のひらに頬を押し付けてくるヴィクトルがいじらしくてたまらず、勇利のものはむくり、とまた芯を持ってしまった。
「あ……」
「あっ、こ、これは……えっと、その……」
 慌てた勇利は右手で性器を掴んで隠したが、ヴィクトルは手のひらの上の液体を、いきなりそこにぶちまけてきた。
「えっ、あ……」
 立ち上がりかけた性器とそれを包む勇利の手にどろっとかけられたそれは、正直見た目が良いものではない。なのにヴィクトルは気にすることなく、勇利の手をどけて、再びそこに舌を這わせはじめた。
「っ、ヴィクトル……っ、うぅ!」
 ヴィクトル自ら手に持った性器をくいっと腹の方へ持ち上げ、裏筋につつっと舌を滑らせて、そのまま舌全体でぎゅうぎゅうと押さえつけられる。熱い舌が触れるところからじわじわと快楽が浮かび、勇利は漏れ出る声を我慢することもできず、なすがままだ。
(う……やられてばっかりじゃ……)
 一応挿れる側のはずなのに、この情けなさは何だ。そう思うと勇利は快楽をただただ享受するだけになりそうな己を叱咤し、精液とヴィクトルの唾液で濡れた右手を前に伸ばした。深い黄緑色の館内着は、ちょっと手で押すだけでするりと脱げる。寝るとき服を着る習慣のないヴィクトルは、風呂上がりに下着を身につけることは稀だった。
「んん、ゆぅり……?」
 今もやはりそうで、ずるっと滑り落ちた館内着がなくなると、なだらかな尻が剥き出しになった。勇利は上半身をかがめて濡れた指で尻のあわいを上からくすぐる。
「あっ、ゆうり……っ!」
「だめだよ、そのままして……」
 ヴィクトルの抵抗を言葉で封じ、勇利は人差し指をくっと曲げて窄まりを探す。それはすぐに見つかって、口内を刺激された興奮のせいなのか、熱を持ってひくついているそこに、つぷりと指先を挿入した。
「あっ……!」
 ヴィクトルは勇利の性器をきゅっと掴んで擦りながら、後ろの刺激に戸惑っている。慣れない様子が可愛くて、勇利は調子に乗って指を深く突き立てる。位置のせいで深くは入れられないし、前立腺にも指先は届かなそうだった。だから縁を緩めるように、肌と粘膜の境目を指先で濡らしていった。人差し指と中指を使って頑なな窄まりを濡らして、甘やかしていく。
「ん……、ぅり……」
 見下ろせば、ヴィクトルは肩をすっかりと勇利の太腿の上に乗せてしまって、崩れた体勢で性器を刺激している。それほどになってもやめない一途ないじらしさにぐっとくる。ヴィクトルの頬は勇利の精液で汚れてしまい、長い前髪にもぺたぺたとついてしまっているようだった。あとで洗ってあげないと、と考えながら勇利は右手をせわしなく動かし、第一関節までを素早く抜き差しする。
「あ、は、ぁ……っ……!」
 右肩を軸に横向きに転がるようにして悶えるヴィクトル。前髪で隠れて顔が見えなくてもったいなかった。きっと氷の上では絶対に見せないような、欲にまみれた表情になっているに違いないのに。ヴィクトルの身体が狭いベッドから落ちてしまわないように支えている左手に力を入れ直しながら、もう一本手があればいいのにと呻く。
「ん、は……ぁ、ヴィクトル、もう……」
 ヴィクトルがずっと掴んで、舌や唇で甘やかしてくれている性器はガチガチに硬くなっている。もうがまんできない。早くヴィクトルの中に入りたい。そんな気持ちだけでいっぱいになる。
 まだヴィクトルを知って片手の指で足りない程度しかセックスをしていない。だから物慣れず、満足に窄まりを慣らすこともできていないが、勇利は気づいていなかった。ただヴィクトルとつながりたい一心で、手を引いてヴィクトルを起き上がらせ、膝立ちになった熱い身体を強く抱きしめる。
「ヴィ、ヴィクトル……っ、もう……いい?」
「ん……いいよ……」
 ずっと前かがみになっている勇利の足の間にいたヴィクトルは、熱が篭っていたのかぽやぽやとのぼせたような顔をしていて、とろんとした瞳や緩んだ唇があまりにも性的だった。なだらかにくびれた腰に腕を回して見上げると、目を合わせたヴィクトルはうっすらと笑った。
 何もかもを受け入れてくれるような慈愛の微笑み。勇利は、急に罪悪感に駆られた。だからせめて、とそのまま指を尻に這わせ、二本の指で深いところまで差し入れてみる。狭い。こんなに狭いところに入れてしまって大丈夫なのだろうか。ちゃんと入ることはわかっているけれど、恐ろしかった。
「ゆぅり……?」
 惑っていると、ヴィクトルがどうかしたのかと首を傾げる。
「ん……痛くない?」
「うん……」
 とろとろした声は本当に大丈夫なのか判断がつけられなかったが、勇利はもう限界だった。痛みを伴う行為だとは分かっていたが、ヴィクトルが平気そうだということに甘えて、抱き寄せた身体をゆっくりと押し下げる。
 ヴィクトルは、勇利の肩に手を置いて抱きついてきた。そのまま左の耳にちゅ、と唇を寄せられて、温かい吐息が耳の中に吹きかけられてぞくぞくする。
「いれるね……」
 ガチガチになった自分の性器を掴み、足を開いたヴィクトルの尻のあわいに押し付ける。滑った窄まりの位置はすぐに分かった。
「あ……、ヴィクトル、先っぽ……はいる……」
 ぬるぬる、と何度か滑って、けれどヴィクトルが腰を固定してゆっくりと押し下がってくるものだから、勇利のものは存外あっさりと、切っ先が潜り込んだ。亀頭のくびれが粘膜の縁にきゅっと包み込まれて、刺激と温かさにあっという間に果てそうになる。
(、っ、だめ……、だ、もうイきそ……)
 いくらなんでも情けなすぎるので、勇利は歯を食いしばって耐える。ヴィクトルの柔らかい胸元に頭を押し付けるようにして下を向いた。そんな格好になった時点で我慢しているのはバレバレなのだろうが、必死に我慢している顔を見られるのは恥ずかしくて嫌だった。
「あっ、ゆうりっ、ゆうり……っ!」