[#1000RTで自撮り画像晒す]



勇ヴィク本
A5/20P/R-18
モブ女が電車で見かけたヴィクトル・ニキフォロフ。その行き先と、その後のエッチです。
前半モブ女視点、後半ヴィクトル視点。
ヴィクトル引退後、長谷津の夏の話。


(はーひまだー)
 長谷津駅から博多駅まではJRで一時間三十分。海が見える長閑すぎる景色から、一時間と少しも走ればすっかり都会に行けるのだから交通の便はそれなりにいい方だと思う。自宅から二時間で空港にも行ける。うん便利だ。でも、こうして友達と遊ぶときに、博多周辺に住んでいるみんなよりも一時間は早く家を出ないといけないのは少しつまらない。SNSだってまだ全然動きがない。みんな起きてるのかなー。
 ガタゴト音がちょっとうるさい。電車は人気がぜーんぜんなくて、車両貸切レベル。っていってもぽつぽつ人は見えるけど。それでもベンチみたいな広い座席にわたしはひとり。
 スマートフォンの画面をスクロール。友達の呟きを探すけど、見当たらなくて。有名人や公式アカウントばかり。
 休日の昼前なんてみんな遊びに行ってるかその準備中だろうし、そんなものだよね。そして、ついに最新にたどり着いてしまう。
 って、あ、ヴィクトル。
 フィギュアスケーターのヴィクトル・ニキフォロフ、知ってるひとはかなり多いと思うけど、その彼がちょうど呟いたところだった。いまね、日本に来てるんだって。
 以前、うちの地元で生まれ育った勝生勇利のコーチをしてたことは、住んでる地域に限ってはめちゃくちゃ有名。フィギュアに興味ないおじいちゃんとかでも知ってるレベル。
 ちなみに私は勝生くんよりふたつ年下だけど、ランニング姿を遠くで見かけたことがあるくらいしか接点がない。同じ地元っていったって意外と広いんだよね。
(あ、写真。これってもしかして電車の中? ヴィクトル・ニキフォロフ、ふつうに電車乗るんだな〜)
 ヴィクトルのツイートって、写真は大抵インスタからの転載なんだけど、文字だけなら圧倒的にツイッターが多い。
 翻訳機にかけてもさっぱり分からないんだけどね、ロシア語だし。
 ただ、ヴィクトルって最近、たまーに日本語でツイートする。教え子の勝生くんに教わっているのか、それともこっちに来すぎで覚えたのか。そうそう、ヴィクトルってオフシーズンはだいたいこっちにいる気がするんだよね。色んな国にもいるけど、日本率も高い。東京とか、福岡とか、それこそ長谷津とかさ。
 電車の中と思わしき写真は、膝から下と床が映されていた。で、その床っていうのがちょっと独特で。いまわたしが乗っている電車も丁度同じなんだけど、三両目から六両目だけなぜか床にQRコードが描かれている。この路線でたまーに見かける車両がこれなんだよね。
(まさか、同じ電車だったりしてー、って、ありえないかあ)

***

「なんでヴィクトルがここにいるの!?」
 なんて。失礼な物言いだよね、コーチ兼恋人に向かってさ。
 博多駅で勇利がテレビの生放送に出演するってことで、俺はわざわざ電車に乗って一時間半、長谷津から博多まで移動して見に行ったんだ。
 到着すると、撮影隊の周りにはそれなりに人がいた。勇利をひと目見ようと、たまたまいた通行人から熱心なファンまで、各種取り混じった女の子たち。時折男もいたけど、でも八割は女の子だから、俺がバレちゃうのは時間の問題だった。ついさっき博多駅にいるってインスタに上げたばっかりってこともあるんだろうけど。でも勇利の撮影中だからって声かけは遠慮してくれた。日本人の女の子はみんな礼儀正しくて空気を読む。
 それで、生放送のコーナーが終わって、はあって息をついた勇利に、ファンの子が親切にも教えたんだ。
「ヴィクトルいるよー!」
 ――ってね。勇利は瞬時に声のする方――つまり俺の方を見て、すっごく喜んでくれると思ったんだ。にっこり笑って「ヴィクトル!」って、言ってくれると思ってた。でも実際は無言でこっちにやってきて、手首を掴んで引っ張って、ロケバスの中へ。
 そしてこの言葉である。
「はるばる仕事見に来た恋人にひどくない?」
「どうせ長谷津は田舎だよ、電車で一時間半もかかるし……」
「そういうことを言ったんじゃないだろぉ!」
 勇利はそもそも、昨日から機嫌があまりよろしくない。セックスするしないで、軽い喧嘩をしたのだ。声が響くから嫌だという勇利と、これまでも気にしたことなんかなかったじゃないかと言った俺。話し合いは平行線だった。
 だが詳しく話を聞いてみると、どうも昨日の朝、真利が苦言を呈してきたらしい。たしかにこっちにやってきて一週間、ほぼ毎日夜はそういう行為をしていて、おそらく声が毎日漏れていて、義理の姉は我慢の限界に達したのだろう。
 直接、性事情のことに対して言及されて驚いたし恥ずかしかったんだろう、勇利は。でもさ、俺のこと散々喘がせたの勇利だよねぇ? 勇利の声なんてどうせほとんど聞こえてないでしょ。むしろ恥ずかしいのは俺じゃない? そう思うけど、勇利にとっては身内に注意された事実は相当堪えたようだ。
 競技を引退した俺は勇利のコーチをメインに、様々な仕事をしている。アイスショーだったり、振り付けだったり、テレビだったり。
 勇利は世界選手権、四枚目の金メダルを目指している最中だ。とはいえまだ九月だから余裕がある。