白い香り

2017.3.5参加J庭ペーパーSS。「和装」をお題に式神獣×陰陽師。
※獣姦なので注意お願いします。


 私の式神は狼の姿かたちをしている。

 毎朝、己の身の内から飛び出してくる、白い獣。耳と首の後ろだけが少し黒ずんでいるので、市松という名をつけた。市松は神殿の板張りの床に足をつけると、そのままこちらに身を寄せてくる。早朝はまだ冷えるので、千鳥はその首元に手を寄せた。ほわりと温かい感触に包まれる。市松には温度があり、息遣いの音さえ聞こえ、当然触れることができる。だが本体は思念体だ。
 千鳥が見つけた狼のなきがらのなかにあった魂。
「市松、こら。あまりじゃれつくな」
 百七十センチほどある千鳥と全長がほとんど変わらない市松にのしかかられると、千鳥は自らの身体を支えることが難しい。結局、ずるりと床に腰をついた。千鳥のほっそりとした肢体は白く、艶やかな黒髪は後頭部でひとつ結びにされ、腰の辺りまで流れている。狼の鼻面でそこを撫で付けるのが市松は好きで、今も床に座り込んだ千鳥をまるで抱き締めるように背まで顔を回り込ませ、上下に顎を動かしていた。
「っ、ふふ、くすぐったいな」
 髪と共に背骨を撫でられて千鳥は頬をほころばせる。この神殿にいる他の陰陽師がついぞ見ることがない、千鳥の緩んだ表情を見ることができるのは市松だけだ。
「グルルルル……」
 市松は喉を鳴らしておねだりする。
「ああ、今日も欲しいのか。……仕様がない」
 狩衣の脇から顔を埋めてふんふん匂いを嗅ぐ市松の息は、だんだん荒くなっていく。市松が好む甘い花の香を身に纏った千鳥は、白く細長い指先を獣の頬に滑らせた。指の先、すぐそこにむき出しの牙がある。唾液に濡れて艶やかに光るそれを人差し指でそっとなぞった。
「グゥ、グウッ」
 興奮したのか、獣は唸るような声を立てる。
「ん、市松、……おいで」
 千鳥は身を捧げるかのように両の腕を広げ、大きな体躯を受け入れると共に床に背をつき、その場で複雑に入り組んだ布を解いていく。当帯、そして袴の結び目を解けば、しゅるりと布が滑って崩れる。柔らかな布の中に隠れた身体を探し当てるように、狼の鼻面が布の中に埋もれた。
 切れ長の瞳を柔らかく緩ませ、千鳥はぴくぴくと動く耳を撫でた。
「ん、……っ、」
 濡れた鼻が探し当てたのは千鳥の胸の飾り。そこは柔らかな蕾のようだったが、市松がくすぐるように刺激すると、すぐに芯を持ってぷくりと立ち上がる。市松は長い舌を出し、べろりと滑らせてそこを濡らした。粘度のある唾液は千鳥にとって媚薬のよに効く。じくじくと身体を刺激され、身悶える。
「ぁ、っ……」
 小さく漏らした吐息に市松も感応し、互いが刺激し合って高まっていく。
 千鳥は狼の脚に自らの性器を擦りつけ、はしたなく腰を揺らした。細長く桃色に染まり、熱を持ったそこはすでに硬い。
 獣の首を抱き、千鳥はあられもない声を漏らした。
「っあ、んん、……っ、」
「グゥッ、グ……」
 狼の股間のものを腿に押し付けられ、千鳥は、ハッと息を逃がしながら、両手をそこへ持っていき、長く鋭い切っ先を包み込む。ぐずぐずに濡れたものを刺激して、千鳥の手もしとどに濡れていく。
「っあ、ぁ、う、……うう」
 自らの性器も重ねて高めあうように刺激すると、もう我慢ができなくなる。恥も外聞もなく、獣と、自らが使役する存在とつながりたいというひどく背徳的な欲求でいっぱいになってしまった。
 千鳥はそれを我慢することなく、身を捧げる。
「あ、もう、市松、……準備なら、しているから」
 身を捩って袴を蹴り、細長い脚を露にした千鳥は、狼の前足が性器を踏むのに悲鳴を上げつつ、両の脚を恥ずかしげもなく手で持ち上げ、大きく広げた。緩んだ窄まりはひくりと息をするように伸縮し、赤く色づいた肌がぬめっていて淫猥だった。
「グルルルッ!」
 市松は我慢できないというように前足を千鳥の胸元につき、陰茎を千鳥のそこに押し当てた。
 ぐぐ、と圧がかかる。
「っ、く……」
 獣の大きなものを身体の中に入れるのは容易ではない。息を逃がしながら、千鳥はゆっくりと身の内に獣を受け入れていく。
「っあ、っ、は、ぁッ……あ、んん、っ……」
 髪を乱し、涙を零しながらも全てを受け入れた千鳥は、獣の瞳の端を指で撫でる。ごわごわした毛皮は決して気持ちいいとは言えず、太腿はそれに擦られて赤くなりはじめている。そうやって自らの身体をすり減らしても、どうしようもなく触れ合いたいと思ってしまう。
「いちま、つ……あ、っ……」
 刹那の感情に支配されるのはあまりにも愚かだと自覚しながらも、やめられない。
「グウウウッ!」
 獣は声を荒げ、腰を揺らめかす。陰茎の根元に瘤ができ、千鳥は激しく身体を揺さぶられた。
「あっ、アッ、あ、っああっ!」
 ガクガクと揺らされ、下敷きにされた柔らかい布が滑り、ずるずると床を滑る。身体を支えきれず翻弄され、千鳥は荒い息を零してそれに耐えた。
「あ、ああ、っ、市松っ、……」
「グウウウッ、グウウッ!」
 獣はぐうっと背を丸め、千鳥の肩に手をついて唇から涎を零す。熱いそれが千鳥の身体に落ちてきた瞬間、どくんと身体を中から揺らされる感覚に支配され――どくどくと、注ぎ込まれはじめる。
「あ、あ、ああ、っ、市松っ……出してくれっ!」
 狼の射精は長い。千鳥は腸の奥の奥にまで流し込まれる感覚に身を震わせ、間欠泉のように何度も小さな射精を繰り返す。涙や唾液を恥もなく垂れ流して、歓喜に身体を震わせた。
「市松、市松っ……」
「グウウ……ッ、グウッ、ゥ……」
 どくどくどく。全く終わってくれない放出は、千鳥の腹を狼の精液で膨らませ、削げたように薄い腹が緩やかな曲線を描くまで続いた。
「は、はっ……」
 下からいっぱいにされる苦しさに、千鳥は苦しげに吐息を漏らす。だが全てを注がれたいと願ったのは千鳥のほうだ。その唇は満足げに笑みを浮かべ、勝ち誇ってさえいた。
(私の可愛い式神)
 射精を続ける獣の頬に指を滑らせ、耳の後ろをくすぐるように撫でた。
「グルルルル……」
 狼は気持ち良さそうに喉を鳴らす。手に顔を摺り寄せ、使役者からの愛を受け止めた。
 それがまるで、当たり前のように。