「どうにかなっちゃいそう」 口をすぼめて彼女は言った。ふわふわのウエーブにばっちりメイク、いちごみるくのグロスののった唇。どこまでも完璧な彼女は不満そうな顔でこっちを上目づかい。 そーいうのは男に向けてやんなさいよ、なんて内心ため息を吐きながら。それでも優しいわたしは聞いてあげる。 「なにが?」 「だぁーって。メール今日まだ2回しか来てないんだよー」 「2回くりゃ十分でしょ」 また彼氏? と問いかければまたってなによお、と甘えるような声。はいはい聞きますよって、足を組みなおす。 椅子に横向きに座って、左には自分の机、右には彼女の机。彼女の机の上には広げたノートに古風なのの字と、広げられたままのピンクのケータイ。きらきらとデコレーションされたそれはたしかにさっきからうんともすんとも言ってない。 わたしの左手にはおそろいのケータイ。デコレーションは彼女がピンク、私が赤。一緒に買いに行って、一緒にデザインしたそれはリボンモチーフのかわいらしいとしか言えないもの。 ホントこの子、わたしのきもちなんてなんにもわかってない。赤なんてだいきらいだし、デコレーションにも興味ないって、ほんとに気づいてないのかな。 でもそんなことはおくびにも出さずに、じゃあさ、と切り出す。 「じゃあメールしてみたら?」 「何て?」 「うーん、『今休憩時間。みなとくんは?』とか」 「みなとくんって言わないでー」 「あぁゴメン、あんたが言うからうつった」 だって彼女はみなとくん病。起きてから寝るまでその名前ばーっかり出てきて、わたしだってうっかりそう呼んでしまうもんだ。 「とりあえず疑問形で送れば返さなきゃってなるらしいよ」 「なるほど」 ふわふわの髪を風になびかせて。彼女はさっそくケータイをつかむ。わたしはこうなったらもう必要ナシ。手持ち無沙汰に自分のケータイを弄る。 「ねぇ、ねー。あいちゃんは彼氏、どう?」 「どうもこうも」 「まぁーたわかれたのー!」 何回目よって、彼女はおおげさに驚いた顔。演技みたいなそれが彼女の素だって、しってる。彼女のことならきっとみなとくんよりしってる。 なんで彼氏と長引かないかなんて、そんなのいやなくらい分かってた。 「なんでだろうねー」 「ふしぎ。あいちゃんこんなにかわいいのに」 「じゃあわたしと付き合う?」 「えっ! つきあうつきあう! だってあいちゃん優しいもんー」 語尾にハートがつきそうな勢いではしゃぐ彼女。やさしいなんてもんじゃない。彼女の全てを肯定する勢いだ。ふわふわの綿菓子みたいなおんなのこ。見たこともない他校の彼氏が憎いくらいに、わたしのほうが彼女をすきなんだよって言いふらしたい。 そんなの無理だってわかってるけど。 「じゃああと10分でみなとくんからメールなかったら付き合おうよ」 だからそう自分を傷つけるようなことを言う。彼女は気づかない。いいよーなんて、なんとも思ってない、グロスののったぷるぷるの唇を笑みの形に変えて。 「あっ、メール」 ほら、かみさまっていない。むしろいるのかな? 彼女のケータイが鳴って、 彼女の意識はわたしとバイバイした。 09.04.04(11.05.28) |