アキラの私室にはあまり物がない。だから座布団なんて気のきいたものは最初から存在しなかった。それを特に気にすることもなく、床に腰をつけ背中の辺りにベッドの側面をくっつけて、部屋にある釣り雑誌を勝手に読み漁っている少年がさっきからこちらを伺っているのは、当然のように気づいていた。
だがノートパソコンに向かって報告書を書いている自分は、それをずっと黙殺していた。そして少しの警戒も。その理由は気を抜くとそのパソコンの画面を見られそうになるということと、もうひとつ。
「なぁ、いい加減終わんねーの」
「勝手に上がりこんでいるのはそっちだろう」
さっきから膝の上に置いている雑誌の内容が頭を素通りしていることには気づいている。スーツにすぐ着替えられるように長袖のシャツを腕まくりして、高校のネクタイとズボンを身に着けているアキラは、目の前の少年、夏樹のことは大抵理解していた。
「じゃあ、もうそれやめろ」
「仕事だから、無理だ」
「社蓄め」
どこで覚えたそんなワード、とアキラは思いながらじっ、と夏樹を見上げる。ゆっくりと立ち上がった夏樹は隙を見てノートパソコンの画面を見ようとするから、ぱたりとそれを閉じた。夏樹は二十五歳のクラスメイトという奇怪な存在がしている仕事に、とても興味があるらしい。しかし画面を閉じてしまえばそれを奪ってまでは見ようとしない素直さが、アキラはまぁ嫌いではなかった。
「なぁ、したい」
――そんなことばかり、言いはじめなければ、だが。
「……昨日しただろ」
「昨日は昨日だろ」
釣りと同じだ。そんな訳の分からない理論を打ち立てて、夏樹はアキラの頬に指先を滑らせる。するすると撫でる指先をくすぐったいと思いながら、アキラは甘んじる。仕方がない、相手をしてやる、くらいの気持ちで。

「なあ、あんただってもう我慢できないはずだろ?」
不遜な笑みを浮かべる夏樹に、最近の高校生は怖い、とアキラは無意識に考えた。





「ぁ、や、やめろ夏樹っ……!」
男同士のやり方をなぜか教えさせられた挙句に押し倒されている今の状態に、アキラは不満以外何も持っていない。持っていないはずなのに、結局いつも流されてしまっている。よくない、よくない、と思っているけれど、今もシーツの上に引き倒されて、後ろから強引に貫かれていた。
「もう我慢できねーの? 開発されすぎだろ」
心底楽しそうな声音をこんなときに披露してしまわないでほしいと思いながら、アキラは両手ですがるようにシーツをひっかく。褐色の肌は、白いシーツとのコントラストが眩しい。目が痛い、と思って瞼を少し落とす。夏樹の体はあつく、子供体温と言えばそうかもしれないとアキラはいつも思う。熱がうつってくる感覚は、苦手だった。自分まであつくなってしまうのは、嫌だと思う。
「う、っあ、や、やめろ、っ、う……ぁ、」
まだ未成熟な性器は、しかし本来入る場所ではないのだからそれでもかなり苦しい。痛みと苦しみでいっぱいになって、内蔵がせりあがってくるような感覚に、アキラは小さくえずいた。
「やめろとか言いながらしめつけてくんなよ」
少し苦しげな声で言う夏樹。そう言いながらぐん、と腰を打ちつけてきて、ほとんど一番奥まで刺激されたアキラは声を失った。痛みだけが体を支配する。無意識にしならせた背がぎしぎしとさえいった気がして、そして喉が空気音をさせ、そのあと呻きに近い音が漏れる。
「う、っ、夏樹、もう、だめだ、なつき……!」
「仕方ねぇなあ」
苦しさで泣きそうになる。それだけは絶対にするものかと堪えながら限界を伝えれば、夏樹はようやく前立腺に刺激を与えてくる。サービスとばかりに萎縮していた陰茎にも触れて扱かれ、アキラは一気に与えられた強い快感に一瞬意識を失ったような気さえした。
「っアァ!! も、ぅあ、……や、」
「気持ちいいよ、アキラ」
楽しそうな声が降ってきて、アキラは悔しくて歯噛みする。けれど、与えられる強すぎる快楽にすぐにそのこと以外は考えられなくなってしまう。夏樹の形が分かってしまうほど深く強く埋め込まれて、知っている形で前立腺を強くこすられて、陰茎に触れたり入れたりするだけでは感じえない、長く重い快楽がアキラの体中を支配した。
(も、う、次こそは拒否する……!)
そう何度も考えていることをまた思考する。次こういう展開になったら、いっそ年甲斐もなく暴れてやる、とそう考えたとき。
「アキラ、好きだよ」
絶妙のタイミングで夏樹が覆いかぶさってきて耳の後ろにそう声を吹き込まれる。
そんなことを甘く、まだ完成されていないような声で言われて、アキラはまた絆されてしまう。
アキラがどれだけもう嫌だと思ったところで、きっとまたこの生意気な年下の男から誘われてしまえば結局拒めないんだろう。
強い快楽に朦朧としはじめる意識の中で、アキラはぼんやりとそう思ったのだった。




2012年06月11日