ほんの気まぐれで、家にやってきた夏樹の飲み物に催淫剤なるものを入れてみた。

そもそも祖国の下町で気まぐれに購入した眉唾物で、効くかどうかすらわからないようなものだったはずなのだが(入国審査の際も特に問題はなかった)どうやら薬が効きやすい体質だったらしい夏樹と、何が入っているかは分からないがそれなりに催淫効果があったらしいそれは大変な相乗効果を生み出してしまったらしい。
「っあ、ん、っ、アキ、ラぁ、もっと…、して、ぇ……!」
腕に爪が食い込むくらい強く引きとめられて、アキラは思わず眉をしかめながらも、夏樹が希望する通り深いところまで体を割り込ませる。夏樹の好きなところは元々これまで何度かの交わりの際の体の反応で簡単に分かってはいたけれど、これまで夏樹はそれを口に出したことはない。しかし催淫剤の効果で今はどこもかしこも触ってと言うし、何ならアキラの手を導こうということすらやってのけている。
いつものストイックなまでの反応とはあまりも違うそれに密かに興奮しているアキラは、そっと舌なめずりをした。
「ここがいいのか?」
「、うん、っ、そこ、そこがイイ、ッ、ぁ…! そこ、んっ……」
「ここをどうされたいんだ?」
「もっと、ぐりぐりって、して、……!」
目尻に涙を貯めながら、アキラを熱心に見つめる夏樹の表情はあまりにもアキラの欲情を煽る。はぁ、はぁ、という浅い息遣いも、目尻に溜まった涙も、快楽に染まった表情も、アキラは余すことなく全てを視界に焼き付けた。
ぐちゅぐちゅと粘った水音が聴覚を煽り、もっと、とぐるりとかき回すように腰を押し付ければ、夏樹は強い刺激に背中を逸らし、日に焼けた喉を晒す。
「っ、ア――!」
「……、なつ、き、ちょっとしめすぎ、……」
「ごめ、っ、…でも、ムリ、…っ、も、あぁっ、きもちぃ…っ、も、わけわかんな、ぁ……!」
なだらかな曲線に浮かぶ喉仏に指を伸ばす暇もなく強く締め付けられて、アキラは危うくそのまま果たしてしまいそうになる。夏樹のそこはいつもよりもずっと熱くてきつい。これも催淫剤の効果なんだろうかとぼんやり考えながらも、汗で滑りそうになる夏樹の膝裏をつかみ直し、片足を肩に担ぎ上げた。
「や…だ、ァ! 、そんな、っつよ…っく、されたら、…あァっ、も、あきら、あきらぁっ…!」
深くえぐるように体を近づかせるたびに、ついには泣き出すように声を上げる夏樹があまりにも可愛く、アキラはすっかり理性というものを放り投げてしまった。肩に担いだ夏樹の左足のふくらはぎに舌を這わせ、少し歯を立てながらちらりと視線をおろせば、それを見た夏樹が頬を真っ赤に染めている。こらえ切れず唇の端からこぼれている唾液を舐め取りたい衝動に駆られながら細い足首をきゅっと掴み、足の裏を人差し指の側面でゆっくりとくすぐれば、夏樹の顔がくしゃりと歪んだ。
「こんなところまで気持ちがいいのか?」
「っ、そんな、や、だ、もう…も、なんも、言う、な、っあ……!」
アキラの言葉すら夏樹には快楽を助長するスパイスにしかならないらしく、いやだという言葉すら誘っているようにしか聞こえない。
少し伸びすぎ感のある髪が汗を吸って夏樹の額やこめかみに張り付いて、日に焼けているとはいえアキラには白く見える肌と、その黒い髪のコントラストは目に印象強く、アキラが気に入ってるところのひとつだった。とはいえあまりにも暑そうに顔をしかめるから、夏樹の腰を掴んでいた左手を伸ばしてその前髪を指先で払ってやる。額は汗でべっしょりだ。夏樹は額をくすぐるアキラの指をちらりと見て、そのまま気持ちよさそうに目を眇めた。
アキラはその表情に一気にあおられてしまい、つい強く腰に力を入れてしまう。
「っうあぁ…! な、いきなり、っ、も、とまんなくなるからぁっ…!」
一度強くされるともう我慢がきかなくなるらしく、せがむような瞳で見つめられる。アキラは肩に担いでいた夏樹の足をシーツに下ろし、そのままその細い体に覆いかぶさって唇を強引に奪う。
「んんっ、ぁ、…む、ぐ、っ…ぁふ、ぅ、んっ……、も、くるしっ、ア、っ……」
「夏樹、もっとココ、強くしていいか?」
「そ、んなこと、っきくな…、っ、」
深い口づけをしていた唇を少し離し、指先をつながった入り口の縁に滑らせながら聞いてみれば、催淫剤の効果があれども夏樹は夏樹のようで、その羞恥に顔をしかめる反応に、アキラは満足げに笑みを深くした。
ぐしゃぐしゃになったシーツの海でもがくように体をねじらせている夏樹を押さえつけ、その両手の指を強く絡ませて至近距離で見つめれば、もう我慢できないというように瞳が潤んで火照っている顔に見返される。
「どうしてほしい? おねだりして、夏樹」
「なッ…! ばかっ、そんな…こと、っ」
「言わないと、ずっとこのままだよ」
にい、と意地の悪い笑みを浮かべながら夏樹の顔が怒ったり、困ったり、羞恥に歪んでいるのを見つめる。ぎゅうぎゅうと指先に力を込めて夏樹の手を握り締めてせかせば、それを緩慢な動きで握り返した夏樹はぷいと横を向き、そのままもごもごと唇を動かした。
「……、て」
「ん? なんて?」
「……も、っがまん、できないか、らっ…………、して」
「仰せのままに」
にっこりと笑みを浮かべて一気に腰を引いて近づければ、いきなり強い刺激を受けた夏樹は我慢がきかなかったようでそのまま声もなく達してしまった。
「っ、――え、っ、な……」
それに驚いたように顔を上向かせた夏樹とばっちり目があったアキラは、つい笑みをこらえるのを忘れてしまって夏樹ににらみつけられる。しかし達したばかりで過敏になっている体はあまりにも弱く、アキラが少し体に触れるだけでびくびくと体を震わせ、ぼろりと瞳から涙を零した。
「だ、め、…、いま、いまはだめ、アキ、ラっ、やだ…、も、またわけわかんなく…、なっちゃう、からぁ…!」
「ごめん、無理」
甘い声にだめだと言われても煽られるだけだと分かっていない夏樹の言葉は、アキラには挑発しているようにしか聞こえない。痛いくらいにぎゅうぎゅうと手を掴まれ、力を入れすぎて白くなってしまっている夏樹のつま先をちらりと見ながら、アキラはすっかり我を忘れてしまいそうな自分を自覚したのだった。




2012年07月01日